#02■文系にも量子力学

ある工場で作られる電球の寿命は、全部の電球を調べなくても、 一部のサンプルの試験結果に、統計学を活用することで、かなり細かく推定することができます。

しかし、「ブランド」や「経営戦略」のような抽象的な存在に、そのような統計数理を適用するには無理があります。 他に方法がないからと、無理は承知の上で、多変量解析などをあてはめてしまうことも多いのですが、やはり、ちょっと強引です。

ブランドや経営戦略は「概念」です。 モノを扱う統計学とは 別の数理が必要です。

例えば、海水は「モノ」ですが、波はモノではありません。波は海水の「状態」です。 スタジアムの観衆がウエーブをおこしているとき、個々の人は、立ったり、座ったりの上下動を繰り返して いるだけで、左右方向には動いていません。 ウエーブという「状態」は左右に大きく動きますが、「モノ」である各人は小さく上下に動くだけです。

「状態」を正しく扱うためには、「モノ」の場合とは異なる数理が必要になります。 もし、電子がモノなら、「林檎を2つ集めてミカンになる」ようなことは起こり得ません。 電子は、実はモノでなくて、「状態」なのです。 ですから、その電子の数が増えるというのは「状態」そのものが変化することなのです。 これが、「電子が1つなら水素、2つだとヘリウム、3つでリチウム」という、あの不思議な現象のからくりです。

量子力学は、単に「モノより小さい世界」だけでなくて、より広く「モノ以外の存在」を扱う能力を備えています。 モノ以外の「状態の世界」全般の新しい科学です。 モノよりも「概念」が中心になることが多い文系とは、意外な親和性があります。

ウエーブの左右方向の動きが、多数の上下の動きの間の「関係性」から生じるように、 「ブランド」や「経営戦略」も多数の抽象概念との間の「関係性」として成立するものです。 これらは、統計数理よりも、量子数理で扱うのに適したものといえます。

文系でも、物価上昇率や、ブランド認知度など、様々な数理を利用してきました。
しかし、それらは「モノの世界の数理」を、概念の世界にあてはめるやり方でした。

概念に数値を割り当てるような方法とは決別し、「ブランド」や「経営戦略」のような抽象概念を、 そのまま「量子系」として扱ってみることで、新しい世界が拓けます。

量子系の数理は、数式の奥に潜む思想が、これまでと大きく異なります。
数式の細部は差し置き、その「思想の違い」を知ることが重要です。
まずは、「作用素」「固有状態」という、2つを理解すれば充分です。 次へ >